泌尿器科
前立腺とは
前立腺は男性の生殖機能にかかわる臓器で、主な働きは、精液の15~20%を占める前立腺液を分泌することです。前立腺液には精子を守る働きがあります。
前立腺炎
男性の膀胱の直下にある前立腺に炎症を起こしたものをいいます。
症状
急性前立腺炎と慢性前立腺炎でその症状はかわります。

・ 急性前立腺炎 38℃以上の発熱を認めることが多く、排尿痛、頻尿といった膀胱炎様の症状をきたします。また、炎症が高度になると前立腺の腫脹のために尿道が圧迫されて排尿障害や時には尿閉(尿が全く出なくなる)になることも珍しくはありません。

・ 慢性前立腺炎 急性前立腺炎のように排尿痛や頻尿といった症状を認めますが、その程度は急性前立腺炎に比べて軽度です。多くの方は会陰部の不快感を訴えますが、その部位は一定せず尿道や臀部、大腿部、下腹部、腰部といった場所に重い痛みを感じる方も多くいらっしゃいます。

・ プロスタトディニア(前立腺症) 症状は慢性前立腺炎と同様なものですが、前立腺液に白血球などの異常を認めないものをいいます。狭義では前立腺炎には含まれないとする説もあります。 膀胱頸部硬化症、骨盤底筋群の緊張、前立腺周囲のうっ血などが原因ではないかと考えられています。
原因
以前は淋菌感染症などの性感染症がその原因として多く見られていましたが、最近は大腸菌などが尿道や脈管(血管やリンパ管)を通って感染していると考えられています。 ただ、現在でもクラミジアなどの菌による感染も認められるのも事実です。
診断
まず問診により前立腺炎の可能性を認めたときには検尿、前立腺触診を行います。前立腺触診とは肛門より指を入れて直腸を通して前立腺の大きさや硬さ、表面の状態、圧痛(圧迫で痛みを感じるか)などを調べる検査です。

急性前立腺炎
前立腺に細菌感染が認められるため、検尿でも白血球(時に膿として表現します)や細菌を認めます。また、前立腺触診では腫脹した前立腺と熱感、強い圧痛を認めます。 また、急性前立腺炎の場合その多くで血液検査上の炎症反応(CRP、白血球数)の増加を認めます。
慢性前立腺炎 前立腺には殆どのケースで細菌感染はなく、検尿でも前立腺触診時に押し出した前立腺液中にも白血球や細菌を認めることはまれです。
前立腺炎の治療
急性前立腺炎
基本的には抗生物質の投与と安静にて治療します。しかしながら、高熱や尿閉状態、経口摂取がうまく出来ない場合などは入院加療が必要です。多くは1週間程度の入院とその後の経口薬の治療で改善します。また尿閉状態の場合は尿道カテーテル(管)を入れて炎症が改善するまで導尿をします。中には前立腺に膿瘍(膿の詰まった袋)を形成している場合もありこの場合に関しては前立腺を切開して膿を出す治療を行います。

慢性前立腺炎
急性前立腺炎と違い入院加療することは殆どありません。慢性前立腺炎の中の細菌性前立腺炎に関しては抗生物質を使用しますが、そのほかの非細菌性前立腺炎やプロスタトディニアに関しては対症療法が中心となります。ただ経験的に非細菌性前立腺炎やプロスタトディニアと考えられる方でも、症状の悪化したときには抗生物質が効果を示すことがあります。
個人的には慢性前立腺炎の多くの患者さんで運動不足や飲水量の不足(私はしばしば1日に2?近く飲むようにお願いしますが…)アルコールの摂取、喫煙などを認めることが多く、こういった行為が前立腺周囲の血液のうっ滞を引き起こし、その結果症状の改善が遅れることがあると考えます。慢性前立腺炎の患者さんに関してはいわゆる健康的な生活が非常に重要であると考えます。 また治療が困難な患者さんのなかにはこのまま癌や肥大症になってしまうのではと心配される方がいますが、前立腺炎がその原因となることは殆どありませんので心配しすぎないということも重要です。慢性前立腺炎の痛みは実質的な痛みより精神的な痛みが多いと考えています。特にこの疾患に関しては外来診療時には出来るだけその不安を解消できるよう患者さんのお話を聞くことも医師の務めと感じています。もし、心配事がある場合はしり込みせずに医師に相談していただくのも大事なことだと思います。
前立腺肥大症
膀胱の下にある前立腺が肥大して、尿道を圧迫し、おもに排尿障害を起こす病気です。排尿障害の症状は、人によって実にさまざまであり、健康なときには、無意識に済ませている排尿がスムーズにいかなくなることで、日常生活に大きな支障をきたします。 。
前立腺肥大症の症状
・排尿後、まだ残っている感じがする(残尿感)
・排尿後すぐに尿意が出てくる(頻尿)
・排尿中に途中で途切れてしまう(尿線途絶)
・排尿を我慢するのがつらい(尿意切迫)
・排尿の勢いが弱い(排尿圧低下)
・いきまないと排尿できない(腹圧排尿)
・夜中に何度もトイレに起きる(夜間頻尿)
等々無意識に済ませている排尿がスムーズにいかなくなることで、日常生活に大きな支障をきたします。
前立腺肥大症の診断
・直腸指診
直腸から前立腺の後面を指で触り、その大きさ、硬さ、表面の状態などを調べます。

・尿道造影
尿道から造影剤を流しながらレントゲンを撮影して、尿道の閉塞状況や膀胱底の異常を確認します。

・ 尿流量測定
機械に向かって排尿してもらうことにより、一回尿量、排尿圧、排尿時間などを測定します。

・超音波検査(経腹、経直腸)
前立腺自体の大きさやその内部の状態を確認したり、膀胱の残尿量を測定したりします。
前立IPSS(国際前立腺症状スコア)
まったく無し 5回に1回 2回に1回 2回に1回未満 2回に1回以上 殆ど常に
1
最近1ヵ月間、排尿後にまだ尿が残っている感じがありましたか?
0
1
2
3
4
5
2
最近1ヵ月間、排尿後2時間以内にもう一度行かねばならないことがありましたか?
0
1
2
3
4
5
3
最近1ヵ月間、排尿途中に尿が途切れることがありましたか?
0
1
2
3
4
5
4
最近1ヵ月間、排尿を我慢することがつらいことがありましたか?
0
1
2
3
4
5
5
最近1ヵ月間、尿の勢いが弱いことがありましたか?
0
1
2
3
4
5
6
最近1ヵ月間、排尿開始時にいきむ必要がありましたか?
0
1
2
3
4
5
7
最近1ヵ月間、床に就いてから朝起きるまでに普通何回排尿に起きましたか?
0回
1回
2回
3回
4回
5回以上

1から7の合計点
0~7
8~19
20~25
判定
軽症
中等症
重症
前立腺肥大症の時期
【第1病期(膀胱刺激期)】
夜間にトイレに行く回数が多くなる、尿の勢いがない、尿がすぐ出ない、少ししか出ない、時間がかかる(排尿障害)などの症状が出てきます。

【第2病期(残尿発生期)】
尿をした後もすっきりとせず残っているような感じがする(残尿感)といった症状が出てきます。

【第3病期(慢性尿閉期)】
昼夜を問わずトイレに行く回数が増えて、排尿にかかる時間が長くなり、一回の排尿に数分かかるようになります。時には尿が全く出なくなってしまうこともあります(尿閉)。
前立腺肥大症の治療
・薬物療法

・α1受容体遮断薬
蓄尿をコントロールする自律神経(交感神経)の命令を  受け止める器官をα1受容体といい、前立腺や尿道の  筋肉にも数多くあります。この薬の作用によって、自律神経の過剰な命令によって緊張している前立腺や  尿道の筋肉が、弛緩してリラックスするため、排尿障害のさまざまな症状が改善されるしくみです。

α1受容体にはa,b,dのサブタイプがあることが知られており、その内のa,dが前立腺及び前立腺部尿道に多く分布しています。
α1a受容体を中心とした遮断薬としてはハルナール(タムスロシン塩酸塩)、ユリーフ(シロドシン)といった薬剤が有名で、α1d受容体を中心とした遮断薬としてはフリバス(ナフトピジル)が有名です。

・抗男性ホルモン剤
前立腺の肥大には男性ホルモンの関与があり、男性ホルモン値を低下させることにより前立腺を縮小させる薬剤があります。

・漢方薬、植物製剤
作用機序については不明ながら頻尿などの改善  効果があります。(牛車腎気丸、エビプロスタットなど)

・手術療法
・TURP(経尿道的前立腺切除術)

下図の通り尿道に内視鏡を挿入し、内視鏡の先端についた電気メスで前立腺を削る手術です。 通常1時間程度で手術は行うことができ、現在の前立腺肥大症手術の代表的なものです。

・前立腺被膜下摘除術
前立腺が非常に大きくなっている場合などに選択される方法で、下腹部を切開して前立腺の内腺を指で核出する方法です。

・レーザー治療(HOLEP、HOLAP、PVP 等)
経尿道的に前立腺をレーザーによって切除したり、蒸散させたりする方法です。
日本ではまだ一般的ではありません。

・温熱療法
尿道あるいは直腸から、マイクロ波や超音波を発振するカテーテルを挿入し、肥大した前立腺組織に照射して、加熱、壊死させる方法です。 多くの施設で行われていますが効果は6~7割程度

・尿道ステント留置術

・TURP(経尿道的前立腺切除術)

金属製のコイルを前立腺部尿道に留置して尿道を確保する方法です。 一般的には心疾患や高齢のため手術が適応にならない患者さんに施行します。


前立腺癌
主に高齢男性の前立腺に腫瘍が発生し、転移浸潤などにより多種の身体的問題を引き起こす可能性のある疾患です。
症状は早期には発生しにくく、主に腰椎を中心とした骨転移を起こしてから発見されることもあり、PSAという血液検査で発見する必要があります。前立腺肥大症とは主とする発生部位に違いがあり、前立腺肥大症が前立腺癌に変化するわけではありません。
前立腺癌の症状
前立腺癌の症状は初期には好発部位の関係から特に何も無いと言えます。
右図の通り、肥大症は尿道側である前立腺の内腺に発生しやすく、癌は被膜に近い外腺に発生しやすいと考えられています。

進行癌の症状
1.前立腺自体の大きさが大きくなることによりおこる排尿障害。
2.癌の転移による疼痛(特に腰椎に多く転移)
3.癌の骨転移による貧血
4.脳への転移による神経症状
*消化管への転移がないため摂食障害などは起きにくく、末期になっても体力の低下が少ない。
前立腺癌の診断
・直腸診
泌尿器科外来においてごく一般的に行われる診察法で、直腸から指を入れて前立腺後面の性状を調べます。

・PSA測定
前立腺癌集団検診として行う検査で、最近は年齢でその正常範囲を分けることを推奨。

・前立腺生検
前立腺から組織を採取して病理的にがん細胞の有無を調べます。前立腺癌の確定診断。

・CT、MRI・骨シンチグラム
前立腺癌診断後病期を決定するのに用います。
前立腺癌の病期

病期A
臨床的に癌とは診断されず、良性病変の診断のもとに手術を受けて、切除された組織内に偶然発見された癌(偶発癌)です。

病期B
前立腺内に限局する癌です。

病期C
前立腺被膜を越えている癌です。

病期D
リンパ節や骨・肺などに転移のある癌です。
前立腺癌の治療
内分治療法
前立腺癌は男性ホルモン(テストステロン)に依存して進行する ことが分かっているため、その男性ホルモンを抑制し、 癌の進行を遅らせる治療法です。
ホルモン療法ではある一定期間を経過すると 効果がなくなり、癌細胞がホルモン抵抗性を確立するために ある一定期間を経過すると治療が困難になります。 そこで最近はある一定値までPSAが低下したところで一時休薬し再度PSAが上昇するのを待ってホルモン療法を再開するのを繰り返す方法も行われています。

・外科的治療
限局性前立腺癌の治療としては最も有効で効果の高い方法です。
開腹あるいは腹腔鏡下に行われ、病巣を含んだ前立腺を全て摘出する方法です。
合併症として尿失禁、ED、出血、直腸障害などがあります。

・放射線療法
1.体外照射
文字通り体の外から前立腺に向けて放射線をかけて癌細胞を死滅させる方法です。放射線療法の中では最も一般的に行われているもの。
2.重粒子線
従来の放射線療法で用いる粒子(X線、ガンマ線)に比較して粒子の大きいネオンやアルゴンを用いて行う方法です。重粒子の場合照射するときのエネルギーによってある深さに大量の線量を与え、その前後に与える線量は少ないので、線量がピークになる部分をがんの患部にあわせることにより、正常組織の障害を少なくすることができます 。
3.小線源療法
前立腺の中に、直接放射性同位元素(ヨードI-125)を埋め込んで、がんを中から殺す方法です。直腸障害やEDなどの合併症が少ないのが特徴で、比較的早期の前立腺癌に適応になります。


血尿(尿潜血)とは
血尿(健康診断で尿潜血と言われたら)一口に「尿潜血陽性」といってもその原因は多種多様です。
まずはその尿潜血が病気によるものかどうかを調べなければなりません。その為に以下のような検査を行ないます。

血液検査
腎炎(慢性の炎症で発熱などの症状は無く場合によってはわずか1週間で腎不全になってしまいます。)の有無について調べます。

CT検査
腎臓から尿管、膀胱(前立腺)までをレントゲンにて断面像を見る検査です。腎機能が正常の場合は造影剤を使用して詳細を確認します。(当院はCTを設置していないため他院に紹介の上検査を受けていただきます)

超音波検査
腎臓の形や時には膀胱、前立腺の形を調べます。

膀胱鏡検査
膀胱内を内視鏡で検査して膀胱がんの有無を調べます。

以上四つの検査の中から必要なものを行ない、病気の有無を検査します。しかし、一度すべての検査を行なっているからといって数年にわたる尿潜血陽性の場合は再度検査が必要になる場合もあります。