食事調査によせて
荒牧小学校校医(内科) 斎藤 浩
本校では数年前から「早寝・早起き・朝ごはん」の運動が積極的に推進され、朝食レシピ集などが発行されるなど、熱心な学校保健活動が取り組まれてきました。その内容は、群馬県のみならず全国の健康推進学校優秀賞を受賞し、全国でも第一級の優れた活動として評価されています。学校と地域社会が連携して児童の食事を考える会が誕生したり、学校保健委員会の児童が自ら下級生のクラスに出向き、活動の成果を伝える出前講座を行うなど、創意にあふれた活動が行われ、校医として誇りに思うとともに、学校保健に関わる先生方の情熱と、保護者の方々の見識の高さに驚いています。
私は本校の創設以来、ずっと校医を勤めさせていただいていますが、過去に給食についての調査はありましたが、児童の家庭の食事についての調査は初めてではないかと思います。
当たり前のことですが、人間の身体は、その人が食べた物によってすべて出来上がっています。ですから人間にとって食事ほど大切なものはありません。しかし、あまりにも身近な日々の営みのため、人々はグルメの話はしても食べることについて系統立てた関心をもたないのが現実です。医学の世界も同様で、疾病や薬の研究は著しく進歩したのに比べ、食べ物が消化器で分解された後、どのように吸収され、血や肉になってゆくか…などの研究は比較的遅れているのが実態です。
一般に食生活の調査はたいへん難しいとされています。何を、どのように食べようと、それは個人の自由。大きなお世話だ、といわれればそれまでです。しかし今回の調査では、こうした困難な諸問題を委員会での活発な討論で乗り越えてきました。設問では、家庭の食事について、子どもの好き嫌いとその解決例、マナー、楽しさ、そして献立を考える時のポイント、について聞いています。よく考えられた設問であり、集計中の回答を拝見し、よくぞここまでまとめたものだと私は感動した次第です。
回答の傾向をみますと、設問1.こどもの好き嫌いを教えて…の問いは、設問6.の献立考える時の一番のポイントは…の問いに関連しています。なぜ好き嫌いをしないことが大切か、といえば栄養の摂取が偏らないようにしたいからに他なりません。設問6の回答者の半数強が「栄養」と答えていますが、この数字はもう少し高くてもよいかも知れません。2年前、荒牧小では「早寝・早起き・朝ごはん」の運動を取り組みました。そのとき掲げた標語を思い出しましょう。
・「腸にスイッチ」(主食/炭水化物。ご飯、パン、うどん、芋、油脂類など)
・「体温にスイッチ」(主菜/タンパク質。魚介、肉、卵、乳製品、豆類など)
・「脳にスイッチ」(副菜/ビタミン群。野菜、海草、菌茸類、朝の果物など)
・「心にスイッチ」(家族一緒) というものでした。
今後の課題として、この主食、主菜、副菜の栄養素の分類法をより多くの方が日常的に使いこなせるようになってほしいと思います。
今、日本の食事・和食が世界から注目されていることはご存知のことと思います。自然の食材から朝、昼、夕の毎日三回の食事で摂る日本の家庭料理の栄養バランスは世界一です。
このことを私たちはよき伝統として次世代に伝え残したいと思います。今回の調査は、こうした考え方から、各家庭に児童の成長過程に応じ適切な食習慣を作って貰うことを願って実施されました。わが国は少子高齢化と人口減少の時代を迎えています。児童の躾(大人も含む)や高齢者の在宅介護等に“家庭力”が問われる時代が到来しているといえます。この調査結果が、すべての荒牧小児童のお宅の “家庭力”アップのきっかけになることを願ってやみません。
2009年9月14日 12:00 AM | 院長コラム